【攻略アドバイス】第4回:目標タイムを見すえて~走りたい「ペース」でなく走れる「ペース」を把握する~

1. フルマラソンでの目標設定

ビジネスにおいても、スポーツにおいても、具体的な目標を決め、それに向かって計画的に日々の活動や練習を積み重ねていくことは、持続的に向上していくために必要なことです。皆さんのフルマラソンへのチャレンジでも、「とにかく頑張って頑張ってゴールを目指す」という漠然とした目標ではなく、「京都マラソンで6時間の制限時間内にゴールする」、「35kmまでは歩かない」、「4時間半を切りたい!」など、既に明確な目標設定が完了している人も多いでしょう。その目標があるからこそ、目標達成に不可欠な体力と走力を高める努力、つまり練習を継続することができるのです。

ただ、フルマラソンの目標というのは願望であってはなりません。より高い困難な目標をかかげて達成した時の喜びや満足感は、とても大きいでしょう。でも、マラソンレースを目指した取組は、人間がより長く健康的に生きていくために貢献する肉体的、精神的なトレーニングだと私は考えます。だから「この目標を1回でもいいから切りたい」という願望レベルではなく、毎年目標達成が繰り返されることが大切なのです。達成した時の喜びを数多く得られることで、健康活動がより長く続けられると考えます。

自己記録を毎年更新し続けることは、若くしてマラソンに取り組み始めた人はもちろん、50歳、60歳でも、いや70歳を超えても可能なこと。これが他のスポーツにはないマラソンの面白さです。その理論は2017大会のコラム「体力と年齢、走力と走歴の関係」でもご紹介しました。ただ、誰でもいつかは、体力の伸びや記録の短縮が止まる時がやってきます。そんな時は、今シーズンの達成可能な目標を背伸びしすぎることなく設定し、その達成可能な目標に向かって練習を継続し、体力、走力を維持、または低下を最小限に抑える、そういうことも素晴らしいチャレンジと言えます。達成可能な適切な目標を設定することは、運動を継続するために習得すべき必要なスキルなのです。

2. 走りたいペースと走れるペース

さて、マラソン練習の話題に移ります。
京都マラソンに当選した際に、多くの人は目標タイムを立てたでしょう。その後、11月に今シーズンの初フルマラソンを走り、その結果から2月の京都マラソンでの目標タイムを変更した人もいると思います。一方、目標タイムの達成、すなわち走りたいペースを達成するために、練習で走らないといけないペースを計算した人もいるのではないでしょうか。

練習では目標のゴールタイムから単純に割算されたペース(=走りたいペース)ではなく、今日の練習で走る距離や時間、練習の目的を考え、今日走れるペース(=走り切れるペース)で走るのが、走力アップにつながる最適な練習法なのです。

ロングペース走、ロングビルドアップ走の場合
とある練習会で、マラソンで4時間を切ることが目標の人(仮にAさんとします。)とこんな会話がありました。



Aさん:「この練習では5分30秒で走らないといけませんよね」
松 井:「いや、この練習ではまず30kmをペースダウンなく走り切ることが目標です。30kmを走り続けることでレースに向けた強い脚が作られていきます。1キロ6分30秒のペースだと走り切れますか?」
Aさん:「はい、それは間違いなく」
松 井:「では6分0秒ではどうですか?」
Aさん:「はい、多分大丈夫だと思います」
松 井:「間違いなく・・・でなく、多分・・・であるなら、今日は6分0秒から走り始めましょう。10km、20kmと走っていって、ペースアップできる自信が出た地点、その後ペースダウンせずにゴールまで走り続けられる地点からペースアップすることを目標としましょう」

実際Aさんは、20kmまでは6分0秒、25kmまで5分45秒、ラストの5kmは5分30秒で走れました。結果、平均ペース5分53秒で走れたのです。

Aさんは、次の30km練習の目標を「5分45~50秒で走り始めて、その後同様にペースアップ」と設定できました。
このように走れるペースで走り出し、走り切った結果を積み上げていくと、レース当日にフルマラソンを走れる、走り切れるペースがわかってきます。そのペースがレースでの目標タイムに近づいてくれば、レース当日は自信をもってスタートに立つことができます。

ハイペース走の場合
攻略アドバイス第2回で紹介したゾーンIV「ややキツい」感覚で、10~15km走るハイペース走の練習をする場合でも、走れるペースが重要です。呼吸が少し乱れ、集中しないとペースが維持できないこの練習で、目標距離をペースダウンせず維持して走り切れたり、ラストを少しペースアップして走り切れたなら、このゾーンの練習目的である乳酸を代謝する機能を高め、ペースアップしても息が上がらない、マラソンペースを引きあげるトレーニングになったと言えます。

ロングペース走、ハイペース走など、どんな練習でも、練習中にペースを確認すること、練習後もペース変化、平均ペースを確認することが、次の練習につながる客観的なデータとなります。ぜひ、距離が正しくわかっているコースを周回走して、周回ごとのラップタイムを確認してください。GPS機能付きのランニングウォッチを活用すれば、リアルタイムで1キロあたりのペースを確認できるのでおススメです。

3. 年末年始の練習

年末年始に練習時間が取れそうな人は、是非以下の練習を行ってみてください。

京都マラソンが初フルマラソンの人
ロングペース走の距離を20kmまで伸ばせた人は、次のステップとして3時間走または最長30km走を1回実施しましょう。1キロの平均ペースが7分30秒であれば24km走になります。この練習でも、ペースを気にする必要はまだありません。歩かず走り続けることが目標です。なお、走力がかなり高い人で、1キロペースの平均が6分0秒より速く走れる場合は3時間未満で終了しましょう。

毎年数回フルマラソンに出る人
今シーズン既にフルマラソンを走り、京都マラソンでは5時間をゴール目標にする人も3時間走または最長30km走を1回は実施しましょう。同様にペースを気にする必要はまだありません。歩かず走り続けることが目標です。3時間走の結果が26kmであれば平均6分55秒で、28kmなら平均6分26秒で走り切れたことになります。
4時間半以内のゴール目標の人は、第3回攻略アドバイスで「ロングペース走」を1~2週間に1回、平均ペースを段階的に上げながら行っていきましょう、とアドバイスしました。この期間も同様の頻度で、走り切れるペースで行っていきましょう。

4. 今回も・・・繰り返しますが、ケガの予防が大切なのです

京都マラソンが初めてのフルマラソンの人は、練習で今まで走れなかった距離が走れるようになって自己最長距離を更新し、走力が急激に高まってきているのを実感していると思います。脚の筋持久力も心肺持久力も間違いなく向上しています。

しかし、脚のいろいろな部分の筋肉、膝関節、足首周辺の組織の柔軟性がなくなってきている状態でもあります。筋肉、腱やそれを取りまく組織が硬くなり、その影響で関節周囲に炎症が発生しやすい状態になっているのです。

京都マラソン当日、スタート時に脚に何かの痛みがあるようなら、完走は難しいのが現実です。初マラソンの人がレース日に向けて準備することは、完走できる体力をつけることですが、それと並行して、練習を積んでいける脚の状態を保ち続けることが、完走という目標に近づくとても大きなポイントです。

繰り返しますが、この攻略アドバイスのこれまでのケガ(ランニング障害)の予防に関するページを再度読み直し、ケガの前兆に気づき、ケアを怠らない習慣を身につけてほしいのです。

今回は、皆さんのペースについての見方を変え、少し余裕を持って今後のペース走に取り組めるようにという願いを込めてアドバイスしました。フルマラソンは、レース自体もレースを目指しての練習も長丁場です。気合い、強い気持ちだけでは続きません。自分のカラダとココロに向き合いながら、この後も賢明にトレーニングを積み重ねていきましょう!

「トレーニング実践編」では、1月も走りこみの練習を行います。ケガ予防のストレッチも詳しく紹介します。
お申し込みはこちら(外部ページにつながります)
※トレーニング実践編では、今回の攻略アドバイスの内容を実際に運動しながら体験していただきます。松井祥文コーチの指導とペースメイクのもと、同じく京都マラソンのゴールを目指すランナーとともに走力アップを目指しましょう!
【第4回 1月7日(日)8:30〜12:30 定員40名】