【スポーツドクターのアドバイス】②イーブンペースを守るために

【イーブンペースを守るために】
一般的にフルマラソンのような長距離、長時間を走りきるための一番重要なことはペースを変えないことだと言われています。
路面が一定であればスピードを一定にすること、つまり前方に身体を移動させる歩幅(ストライド)と歩数(ピッチ)を一定に保つことができれば走速度(スピード)は一定に保つことができます。この時に使う筋肉は、関節の可動域を一定にするための筋肉、着地の衝撃を緩和させるための筋肉として使います。スピードに関連するアドバイスは2017年のサブ3.5・サブ4応援アドバイス「自己記録を縮めるために・歩幅を広げた時の問題点と対処法」を参考にしてください。

長い時間同じ動作を続けるには、筋肉の老廃物(主に乳酸)を貯めないことが大前提になります。各個人によって筋肉に老廃物が溜まってくる許容範囲が決まっています。この許容範囲以内の強度(走速度)で運動している場合には理論上は同じ強度の運動を継続することができます。走り始めはみなさん元気なため許容範囲を超えたスピードで走ってしまうことが多くなります。すると知らない間に筋肉の中では筋肉を動かすエネルギーを生み出した後の老廃物である乳酸が産生されて体の中に蓄積され始めます。運動していて呼吸がハーハーと大きくなって回数もどんどん増えていくのは、酸素をたくさん取り込んで、血液中に溜まってきた乳酸を肺でガス交換し二酸化炭素に変換して体の外に排出しているわけです。この交換機能の強化が長距離を走りきるための持久力の向上です。

老廃物の乳酸を二酸化炭素に変換して吐き出せている間は何とか乳酸の蓄積を食い止めることができますが、ガス交換の許容範囲を超えた強度の運動をしてしまうと筋肉に乳酸が蓄積してパンパンになり、呼吸によってその乳酸を二酸化炭素として排出しきれない状態が続くため、後半に早く走ろうとしても脚が思うように動かない状況になってしまうのです。
初心者の方が長距離を走るための持久力を向上させるには、ペースはゆっくりでも、ゆっくり長く走ることで、乳酸を肺で二酸化炭素に変換して体の外へ排出する心肺機能を高める練習が必要です。初めてのマラソンに挑戦する人は、練習ではまずペースは考えずにゆっくり長く同じ動作を繰り返すことを行ってください。走り続けるのがつらい場合には10分ごとにウォーキングとランニングを交互に繰り返しても十分練習になります。最初はウォーク&ランを30分から行い、60分まで伸ばすことを目標にしていただきたいと思います。本番では京都マラソンだと6時間ほど続ける必要がありますから、少しずつでも慣れておきましょう。

【京都マラソンのコースでは】
これらのイーブンペースを維持することの大前提は、走るコースが陸上競技場のような平らな路面になっていることです。しかし、市民マラソンの行われる都市型マラソンではずっと平坦なコースを40kmも設定することはなかなか難しいのが現実です。京都マラソンにおいても前半の15kmは嵐山や広沢の池、仁和寺、金閣寺などの京都でも有数の観光地の周辺を走ります。風光明媚な魅力ある地域を走れる代りに残念ながらアップダウンがあります。15kmの区間には5回のアップダウンの繰り返しで徐々に上っていく苦しいコース設定になっています。上り坂・下り坂の走り方のアドバイスは2015年の攻略アドバイス&メディカル情報「上り坂の注意・下り坂の注意」を参考にしてください。


坂の上りは前方へ移動するためのエネルギーに加えて身体を上方へ移動させるためのエネルギーを余分に使うことになります。この時に身体を前上方へ移動させるには階段を上る時と同じように大腿四頭筋を主に使います。前半の上り坂でのオーバーペースはこの大腿四頭筋の疲労を招き後半でのストライドに影響してしまいます。

下り坂では下り傾斜の分だけ普段通りの歩幅でも、平地の着地地点よりも前方に着地することになります。このため大腿四頭筋を使って脚を振り出さなくてもストライドを稼ぐことができてスピードを上げることができます。しかし、スピードの増加と下り傾斜のために着地時の衝撃が増加することになります。この影響は着地を安定するための足関節、膝関節や股関節を支える筋肉の疲労を招くだけではなく、関節の炎症や関節軟骨(クッション)の障害にもつながります。

このように上り下りが交互に続く京都マラソンの前半では練習で目標としていたイーブンペースの走り方を行うのには厳しい条件だと思います。5キロごとのラップタイムが設定どおりにいかないことが予想されます。前半の上りではペースが落ちて周囲のランナーに抜かれても決して焦らず筋肉に負担をかけない走りで、疲労の蓄積を最小限に抑えてください。途中で予定タイムを取り返すための無理なペースアップは後半の大失速につながります。37km付近の京都大学から銀閣寺までに待ち構える最後の厳しい上り坂を走りきって笑顔で平安神宮にゴールしていただきたいと願っています。